JSA 一般社団法人日本船主協会
文字サイズを変更する
小
中
大

Homeオピニオン >2022年12月

オピニオン

2022年12月1日

友田副会長

伝承と革新で
次世代海運の基盤づくりを

日本船主協会 副会長
友田 圭司

今、幕を閉じようとしている2022年は新型コロナウイルス蔓延に加え大災害・不慮の事故、ロシアのウクライナ侵攻等が相まって、未曾有かつ激動の1年となった。海運各社は昨年来の世界的物流・人流障害の中、“輸送を止めない”事に日夜注力し続けている。日本船主協会DVD「暮らしを支える日本の海運」の冒頭では“もし海運が無かったら”と問いかけ、わが国のコンビニエンスストアの棚から商品のほとんどが消え去るシーンをその解として示し、四囲環海のわが国で99.6%の輸出入を担う海運の重要性を訴えている。サプライチェーンの安定的な維持が経済安全保障の重要課題である事は論を待たない。

そうした中で昨年5月に国家政策が打ち出された。海運・造船・船員が一体となって成長し、日本経済を支えられるよう産業基盤を維持・強化しつつ、GHG(温室効果ガス)排出削減といった社会的要請に応えるための体制強化を目した画期的な海事産業強化法の制定である。また本年度期限切れとなる船舶特別償却制度・トン数標準税制・船舶買替特例(圧縮記帳)等の拡充や延長を審議いただいている。公共性を有しながら民間企業として国際競争にさらされる海運界にとって、これらの海運税制支援なかりせば安定的な海上輸送の維持が困難になると言っても過言ではない。海事産業界の要望が結実する事を祈念している。

一方、こうした諸策の基盤として求められるのは海運の重要性についての理解を国民全般にもっと深めてもらう事である。海運を“見える化”する術としてこれまで本船見学・出前授業・学習指導要領や教科書への反映・教材提供・海の日の情宣等を促進してきた。新型コロナによる制限下では、デジタル媒体で発信力を強化し、また海事諸団体の海事啓発資料を取り纏めて国内外の海事都市の教育機関に送付、並行して出前授業の頻度も増やした。

出前授業終了時には生徒から“海上輸送を担う多くの人々が日々の生活を支えてくれている事が解った。洋上で頑張ってくれた船員さんに感謝したい。船長さんにあこがれた。自分も社会のためになる仕事がしたい”との嬉しい反応が幾人からも返ってくる。またそうした学校から、日本海事広報協会主催のジュニア・シッピング・ジャーナリスト賞(船や港を題材にした壁新聞コンテスト)に応募があるなど成果があがっている。

しかし今は各地に萌芽が見られた段階。これを点から面へ広げるべく、「海運をより強く印象づける新たなアングルからの広報を打ち、海事諸団体とのシナジーを高めるべし」という池田潤一郎会長の号令のもと、大都市圏の成人向けに視覚に訴える広告展開の試行に入っている。これらの積み重ねで、少しでも人々が海運に関心を寄せ、夢や憧れを抱くきっかけにつながればと切に願う。

海運の社会的認知は次世代確保へのスタート点でもある。少子化の一方、職業選択肢の多様化が一段と進みつつあるわが国において“魅力ある産業”と映らねば次世代確保は覚束ない。まずは事業基盤の安定と持続的発展が求められるが、加えてそこで活き活きと働く人々の背を次世代や保護者に見せていく“見える化”が必要だ。環境技術革新・自律運航など大きな変革を遂げていく海運の斬新かつダイナミックな姿を伝え、世代を問わず“ワクワク感”を喚起する事は必須と言えよう。

そして忘れてならないのは、シーマンシップの伝承やわが国・世界のサプライチェーンへの貢献、そしてそこで働く人々について語っていく事だ。

AI技術の活用が益々加速し働き方も大きな変容を遂げ、将来の海運従事者に求められる資質の変化も既に顕在化しつつある。そういう時代だからこそ猶更、“変わらない本質”と“進化していく事”を複眼的に見つめ、伝承と革新、不易流行、温故知新をもって次世代人材の基盤づくりに取り組んでいく事が海運界により求められる時代に入ってきたのではないだろうか。

以上
※本稿は筆者の個人的な見解を掲載するものです。

  • オピニオン
  • 海運政策・税制
  • 海賊問題
  • 環境問題
  • 各種レポート
  • IMO情報
  • ASF情報
  • 海事人材の確保