JSA 一般社団法人日本船主協会
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オピニオン

2023年1月1日

池田会長

2023年新春を迎えて

日本船主協会 会長
池田 潤一郎

新年あけましておめでとうございます。

2023年の年頭にあたり一言ご挨拶申し上げます。

昨年は新型コロナウイルス感染によって重病化するリスクが減少し、コロナ禍に端を発したコンテナ需給逼迫による物流の混乱や船員交代等の問題も山を越えて解消に向かったことは喜ばしかった一方で、ロシアによるウクライナ侵攻という国際秩序を揺るがす大きな問題が発生し、それに起因したエネルギーやその他原材料価格の高騰、各国と米国との金利差拡大によるドル高の進行も相俟った世界的な光熱費、食料品や日用品といった幅広い品目の価格高騰等の問題が、今も世界の人々の暮らし、経済活動に暗い影を落としております。海運業界も多大な影響を受け、先行きが不透明になっておりますが、当協会は本年も業界が抱える諸課題の解決に向け、取り組みを進めて参る所存です。

まずは国際競争力の強化です。

昨年は、令和5年度税制改正において当協会が重点要望事項として掲げていた「外航船舶の特別償却制度の拡充・延長」、「トン数標準税制の延長」および「外航船舶の買換特例制度(圧縮記帳)の延長」が夫々認められました。これらは、国会の先生方、国土交通省はじめ関係省庁の皆様のご支援の賜物です。この場をお借りして、厚く御礼申し上げます。

厳しい国際競争に晒されている外航海運会社にとって、他国と同じ条件で競争できる環境の整備は、日本の海運が世界で競争を勝ち抜き、日本の経済安全保障推進に貢献する上で極めて重要です。当協会は、引き続き国際競争力強化のための環境整備に取り組んで参ります。

昨今の海運業界にとって最重要課題になっているのが、GHG(温室効果ガス)をはじめとする環境問題への対応です。世界の海を舞台に活動するわれわれにとって、地球環境保護への取り組みは海運業界が持続的発展を続ける上で必要不可欠です。

IMO(国際海事機関)は、今夏新たなGHG削減目標を定め、中長期的GHG削減に向けて更なる取り組みを加速化していきますが、本年1月からは短期対策として、EEXI規制(既存船の燃費性能規制)およびCII格付け(燃費実績を基にした船舶格付け制度)を導入しました。

海運業界は、上述した取り組み以外にも、今ある技術でGHG削減が可能なLNG燃料船の普及、新しい技術による新規代替燃料を用いる次世代船の開発等を進め、低・脱炭素化に一層努力し、わが国海運の2050年GHGネットゼロを目指し取り組んで参ります。広く社会の皆様のご理解とご協力をお願い致します。

海運業界にとって、いつの時代も重要な課題は安全運航の確保です。

当協会は、安全運航に向けた業界としての新たな取り組みとして、昨年末より会員各社が事故情報や安全品質向上に向けた個社の取り組みを共有できる情報共有プラットフォーム構築に向けた活動を試験的に開始し、本年からの本格運用を目指します。

われわれができる上述したような自助努力は最大限行っていく一方、北朝鮮によるミサイル発射やウクライナ侵攻等による海上のリスクや海賊への対処等は自助努力だけでは解決が難しいため、政府関係の皆様のご支援が必要です。

海賊対処については、昨今はわが国自衛隊や海上保安庁および各国政府による継続的な海賊対処行動が奏功し、近年ソマリア沖・アデン湾の海賊発生件数は低い水準で推移していますが、海賊を生み出すソマリア国内の貧困等の根本的な問題は解決しておらず、引き続きわが国自衛隊や海上保安庁および各国政府が協調した海賊対処行動の継続が必要な状況です。現地の酷暑や砂塵といった厳しい環境下で日頃よりご対応いただいている現地派遣団の皆様には、心より感謝申し上げます。本年は2月にジブチに訪問し、直接皆様へ御礼を述べる機会を得たいと考えております。

われわれの課題は他にも、海事人材の確保・育成、パナマ・スエズ運河通航料の値上げへの対応等もございます。これら諸課題を解決するためには国民の皆様による海運へのご理解とご支援が必要不可欠です。当協会は、これまで進めてきた海事広報を、時代に即した有効性の高い広報へと強化し、他の海事関連諸団体とも連携することで、日本における海事産業の重要性に関する認知度の更なる向上に取り組んで参りたいと考えております。

さて、冒頭に触れたロシアによるウクライナ侵攻による世界情勢の変化は、わが国の海運がその使命を果たす上で世界とその海が平和且つ自由で開かれていることが大前提として必要であることを、われわれに改めて認識させました。そして、われわれ事業者は、従来以上に幅広い意味合いをもつようになった経済安全保障の視点から、安定した事業継続に必要な政府による安全保障に関する様々な選択肢をよく吟味する必要に迫られていると考えます。

最後になりましたが、ウクライナ侵攻が一日も早く終結し、世界とその海に平和と自由が戻ることを心から祈念し、挨拶の結びとさせていただきます。

以上

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