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オピニオン

2023年2月1日

田渕常任委員

『令和5年度の内航海運を思う』

日本船主協会 常任委員
田渕海運 代表取締役社長
田渕 訓生

日本船主協会のオピニオンへの寄稿は、今回で4年連続の4回目になります。

第1回目は2019年度『令和時代の内航海運ビジネスについて私が思うこと』として令和2年度中の暫定措置事業の終了を鑑み、その後も内航海運業界のまとめ役(新総連合会)が必要であることを論じ、内航海運に船種の違いがあり、その中に絶滅危惧種の可能性がある船種も存在すると考えました。

第2回目は2020年度『海運業界と内航小型船舶における諸問題について』として内航のカボタージュ制度から始まり、内航海運の輸送比率から最後はやはり小型船の絶滅危惧種対策を深堀致しました。

第3回目の2021年度は、昨年5月より本格化された船員法改正による内航海運の働き方改革を鑑み、さらに船舶管理の難易度が間違いなく上がってくるという話を致しました。

今回の第4回目はこれらの働き方改革実施にあたっての種々問題点と益々厳しくなっていく船員問題をどう対処するか?について述べさせていただきます。(あくまで私の持論であり業界を代表する意見ではありませんのでそこのところは宜しくお願い致します。)

まず船員の働き方改革では、陸上と同じく船員1名あたりの労働時間は72時間/週までと考えられているが、例えば過去に船員1名あたり85時間/週働いていたと仮定すると、13時間/週のオーバーワークとなる(1.18=約2割のオーバーワーク)。これらの時間に対して人を増やして補えば、単純計算で現在の内航船員が約22,000人とすれば25,960人(1.18倍)となり、働き方改革を確実に行えば3,960人の増員が必要となる。また現在、国内では同時にブルーカラーの働き方改革も行われており、建設現場での大幅な増員、報道等にもある通りトラック運転手の3割不足(2024年問題)や各メーカーの工場日本回帰による大幅な人員確保なども考えられ、更には国の安全保障による海上自衛隊、海上保安庁の増員なども考えると3,960人を大幅に超える不足感を感じてしまう。これらに対抗してDXによるAI技術の進展による省力化も考えられるが、それらが商品化される時間軸(5年以内か?10年以内か?)がどうなるのか?を見極める為、私なりに大きく分けて2つの【対策】を考えてみた。

【対策Ⅰ】オーバー13時間を削減する方法

①積み荷トン数あたりの人数を減らすための船舶の大型化積み荷トン数あたりの人数を減らすための船舶の大型化

②船員の航海当直時間を減らすためのAIを使い航海当直を補助

③機関部の陸上支援体制の構築(エンジンメーカーの24時間監視)

④荷役の陸上支援体制の構築(ホースなど着脱作業の簡素化含む)

⑤船舶の荷役集中管理システム(DX化)での労務削減策

⑥クリーニング作業を減らすための陸上支援体制またはクリーニング作業と浚いの完全自動化(DX化)

⑦待機時間(作業時間)の無駄を避ける為こまめな連絡体制の確保

⑧日用品、食事の流通の簡素化を進める

などがあるが、あまりそうそう簡単に出来るものではない。もしこれらが直ぐに出来なければ、【対策Ⅱ】不足船員3,960人を補う方法に頼るしかなくなるのでそちらに移行する。

【対策Ⅱ】

①漁業船員の招致(全体数は減っているが可能性の追求)

②水産学校(工業高校)への展開による新卒の確保(採用後の各企業の教育、訓練をより充実し対応)

③女子船員の活用の多様化(仕事の多様化プラスDX)

④助っ人を考える(年配船員の活用や一部外国人の活用?)

などざっと書きましたが、われわれは【対策Ⅰ】を最初に考えて対応するのが本来の考え方ではあるが、時間軸も含めて考えると即効性という点ではやはり難しいのではないか?そうなると前回の第3回目の投稿のときにも言った通り、船員を増強するか一時的に船舶の不稼働による対応しか考えにくい。さらにそうなれば安定輸送をするために船舶増強で賄わなければならないが、先ほど説明の通り、大幅な船員(労働力)不足の為に簡単ではない。そうなると荷主とオペレーター間での安定輸送における信頼関係が崩れてくる。最終的に荷主の方から【対策Ⅱ】④『助っ人論』の要求がでてくることも視野に入れなければならない。また一部のオーナーより苦し紛れの要求が出てくることも想像され注意が必要だ。今後はこれらのこともカボタージュを堅持しながらどう対応するか?われわれの中で目を背けるだけではなく、研究も必要だと考えている。昨年度のオピニオンの締めくくりに『今年から徐々にではありますが、船員の労働条件改善が一気に進み、船員の絶対数の増加、さらに船員の地位向上につながり、まさに四面を海に囲まれた海洋国家日本の理想的な物流体制になっていくこと』などと夢物語を語ったが、どんどん進む強烈な人手不足の前にどう対処するか?私自身海事事業経営者として正念場を迎えているといっても過言ではない。DXが進むその日まで強烈な人手不足と対峙しないといけないのか?われわれの使命はその最終目標の多くの課題をクリアすること、今は船舶管理の難易度がMAXであることは間違いなく、この急場をどうしのいでいくか?いろいろな皆さんのご指導を仰ぎながら考えている今日この頃です。

以上
※本稿は筆者の個人的な見解を掲載するものです。

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