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2023年3月1日

谷水常任委員

日中雑感 「グローバルサウス」

日本船主協会 常任委員
NSユナイテッド海運 代表取締役社長
谷水 一雄

ブラジルでルーラが大統領に返り咲き、かつてのBRICsの時代を思い出した。あれから20年、新興国の先頭集団であったブラジル・ロシア・インド・中国は、それぞれ成長の道を歩み、独自の価値観で世界に大きな影響を与えている。また彼らに次ぐ多くの国と地域も経済テイクオフを実現しつつある。アジア・中東・中南米・アフリカなど冷戦時の第三世界は今では厚みを増してグローバルサウスと呼ばれ、資源国の顔だけでなく世界のキープレーヤーとして存在感を増しつつある。先進国との格差による南北問題という表層的な二項対立はもはや存在せず世界は多面的なグローバルダイナミズムの時代に入っている。

ロシアのウクライナ侵攻について、世論は非難、中立、同調が各々世界の1/3ずつであった。TVが9.11後の圧倒的米国支持と比べ、これを分断の象徴として伝えている。ただこれは正しい見方なのだろうか。国際問題の報道では欧米か中国・ロシアかといった対立視点が多い。また常にアプローチは欧米からの目線であり日本の立ち位置もそこに置かれている。西側にもおごりはないか。世界にはその間に先述の多くの国と地域があり、それが意識されることは多くない。

見落としてはいけないのは、グローバルサウスは昔のような声なき従属的な存在ではない。必ずしも親米・親中・親露ということではなく、それぞれの事情や考え方で動いている。また、欧米の地盤沈下もあり、逆に自らの力で世界を動かそうともしている。思い返せばアジアはかつて戦後の非同盟中立の旗手でもあった。

「今は戦争の時ではない」とプーチンに言い放ったモディ首相のインド。先日のG20で議長国を務め全体宣言をまとめたジョコ大統領のインドネシアやアジア諸国。くせ者だがエルドアン大統領のトルコ。そしてルーラ大統領のブラジルも視線は外を向いている。彼らは世界の分断を望んでいない。われわれはグローバルサウスに助けられている面もあるのではなかろうか。

重要なことは、もはや彼らを巻き込んでいかないとグローバルな課題は解決できなくなっていること、特に気候変動のような地球規模の課題では協調が欠かせない。COP27では、干ばつや海面上昇また自然災害などで直接影響を受ける国、成長の機会を失いたくない国との間で経済的利害の解決に努力していくことが合意された。国際海運の今後のGHG削減議論においてもこういった国々への支援や配慮なしには進められない。まさにサステナビリティの時代のステークホルダーといえよう。

中国はどうか、中国がサウスなのかという疑問もあるが、グローバルサウスのリーダーとして西側に挑戦する勢力を築こうとしている。最近ではカタールワールドカップのスタジアム建設、サウジをはじめ中東への微笑外交もしたたか。ただ本当に中国の思惑どおりになるのかは意見の分かれるところ。中国の国力もかつての勢いを失い成長が鈍化していくことが予想される中で、次を担う他のグローバルサウスの存在が大きくなり、中国とてそれを無視できず、これまでの圧倒的な立ち位置が変容していくことも考えられるのではないか。これも劇画ではないがキングダムのたどる歴史かもしれない。それにより中国が国際社会との協調に価値を見出し少しでも歩み寄ってくることを期待したい。

最後に日本はどうか。日本は西側の一員として振る舞っているが、このグローバルダイナミズムの時代に生き延びていく術はそれだけでいいのか。日米関係の基本は揺るがないが独自性や幅も必要ではないか。日本の経済規模も小さくなっていく中で、国際社会への貢献と勢力を増すグローバルサウスとの多面的な関係深化は日本の将来にとってより重要になってくるだろう。難しいのは日中であるが、今年は二国間の礎となる日中平和友好条約の45周年、今アジアのダイナミズムと海の平和に注目が集まっている。

以上
※本稿は筆者の個人的な見解を掲載するものです。

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