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オピニオン

2023年4月1日

明珍副会長

海運における自動運航の取り組み

日本船主協会 副会長
川崎汽船 代表取締役社長
明珍 幸一

コロナ禍の下、サプライチェーンにおける海運の重要性が再認識されたことに加え、経済安全保障を支える海運の役割への期待がかつてなく高まっていると感じています。その役割を果たし、海上輸送における安全性向上を更に追求するには、海事従事者への不断の努力を求めるだけではなく、ヒュ一マンエラ一の未然の回避や高度な操船支援を可能とする自動運航技術の開発が今後大きく活かせると考えます。

川崎汽船では、高知能船による安全運航を目指し、“K”-Assist プロジェクトと名づけて、長年に渡り培ってきた安全運航に関する知見と最先端の技術を融合し、見張り・操船支援、機関プラント運転支援、安全離着岸支援、実海域最適航路制御の4つの分野において、操船者への高度化支援を行い、船舶運航のさらなる安全性を向上させ、ひいては将来の自動運航船の実現につながるシステム開発を進めています。

2021年には「見張り・操船支援」において、操船者が行う「状況認識→情報整理→危険判断→行動決定→操船」の一連の動作に対して、グローク・テクノロジー社や富士通のAI(人工知能)技術などを活用し、情報提供と行動提案を可能とするシステムの共同研究開発を日本無線、YDKテクノロジーズと開始しました。「機関プラント運転支援」においては、川崎汽船のシステムを通じて蓄積収集した豊富な機関運転データを高度なAI技術で解析することで機関プラントの最適運転支援、故障予知・診断、状態監視保全を実現すべく川崎重工業と共同研究開発をスタート。AI技術解析においては、深層学習・機械学習において最先端の技術を有するプリファードネットワークス社をパートナーとして取り組んでいます。

「安全離着岸支援システム」の実用化に向けては、川崎汽船に加えて川崎近海汽船および川崎重工業の3社で新たな取り組みを開始しています。港湾内の離着岸作業は各船固有の操縦性能と係船設備の特徴を熟知した乗組員によって行われていますが、今回のシステム開発では、安全離着岸操船をAIなどの最新技術で、港内操船、離着岸操船、係船作業、係船管理の4つの対応を一気通貫で支援するもので、世界ではじめて推進機と係船機を同時に連携制御するシステムの実用化に向けて、研究開発を進めています。

今後、海運業界全体で早期の自動運航を実現するためには、システム開発における規格面の整備が有効な手段となることが考えられます。現在は実証実験の段階であり、統一規格が存在しませんが、システム間の連携を考慮すれば、いずれは標準化が進むのではないでしょうか。

運航形態や船種・船型が異なる船舶が同じようなシステムを積み、違うメーカーであっても共通の規格が出来れば、例えば多種多様な船舶が輻輳する海域においても安全な回避などへの対応が可能となります。規格面の整備が進めば、業界全体で安全で効率的な運航に寄与する自動運航船が更に加速する日がいつか来るかもしれません。

安全・安心の一層の向上による品質の高い輸送を実現、サプライチェーンを海上輸送から支えるため、引き続き自動運航の実用化に向けて取り組みを進めて行く所存です。

以上
※本稿は筆者の個人的な見解を掲載するものです。

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