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オピニオン

2023年9月1日

栗林副会長

迫りくる2024年問題とその影響

日本船主協会 副会長
栗林商船 代表取締役社長
栗林 宏𠮷

国内物流を支えるトラック労働者の時間外労働の上限は、平成31(2019)年4月の働き方改革関連法改正の時から5年間の猶予が来年ついに終わり、年間960時間までの上限規制がかかりさらに拘束時間も厳しくなる。そのため長距離幹線輸送を含め全体に影響が出るため今までどおりに貨物が運べなくなる、これがいわゆる物流の2024年問題である。

国は当初よりこの問題を大変影響ある問題ととらえ、内閣府が中心となり、国土交通省と経済産業省、農林水産省も加わり、ドライバーの働き方改革を貨物の品目別に検証を進めて来た。具体的にどれくらいの影響が出るかというと、ドライバーの高齢化に伴う不足分を含んではいるものの、2024年に14%、2030年には34%輸送力不足が生じる可能性があるという試算が公表されている。

そして本年3月の衆参の予算委員会でこの問題は取り上げられ、3月31日と6月2日に開催された「我が国の物流の革新に関する関係閣僚会議」を経て、「物流革新に向けた政策パッケージ」が決定され、施策としての準備は整った形で現場への対応が求められ始めている。

その政策パッケージの内容を見てみると、具体的な施策としては①商慣行の見直し、②物流の効率化、③荷主・消費者の行動変容の三点になる。

商慣行の見直しとは貨物形態のパレット化を進め、作業時間の短縮を目指し、積み地揚げ地での倉庫の待機時間を減らして労働時間の減少を図ることが中心となる。物流の効率化とは物流のDX・GXの推進や、ダブル連結トラックの導入など輸送力の向上につながるもの、そして商慣習の見直しは、荷主や消費者の意識改革に訴え、無駄な物流を生じさせない取り組みとなっている。

この中で、内航・フェリーへのモーダルシフトは、②物流の効率化の中に位置づけられ、年間1千万トン程度の効果が見込まれている。1千万トンとはどういう根拠から導かれ、全体の中で占める割合も示されてはいないのでその重みがわかりにくいところではあるが、とにかく内航定期船業界にとって大変な数量であることには間違いないであろう。

それではどんな航路にどんな貨物が増える可能性があるかを見てみると、国土交通省総合政策局物流政策課の資料によれば、2024年問題で影響を受ける地域は、①中国、②九州、③関東の順だそうで、また影響を受ける貨物の品目としては圧倒的に農水産物となっている。

こうしてみると九州発着のフェリー・RORO船には相当な追い風が吹くと思われるが、乗り越えなければならない課題も多い。荷主・フォワーダーへのアンケートによれば、モーダルシフトへの課題は①集配スケジュールと船のダイヤがマッチしない、②船枠がタイトで利用できない等となっており、航路によっては改善に時間がかかりそうである。また海運界からも新規航路開設や増便に向けて、港湾施設の充実やシャーシヤードの拡充など港の対応を望む声が出始めている。そして何よりも、現状で陸上から海上へのモーダルシフトを行うに、陸と海のコストの差は大きな問題である。

これらの課題を解決するために、行政の支援を得るだけでなく、国内定期航路業界としてもサービスの改善や荷主・トラック業界への意識改革の働きかけを含め、全体で2024年問題に対応していかなければならない。業界の総合力が問われるところである。

以上
※本稿は筆者の個人的な見解を掲載するものです。

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