JSA 一般社団法人日本船主協会
文字サイズを変更する
小
中
大

Homeオピニオン >2024年3月

オピニオン

2024年3月1日

山中社長

日本の人口

日本船主協会 常任委員
NSユナイテッド海運 代表取締役社長
山中 一馬

日本ではすでに数十年前から少子化が始まっています。現在1億2400万人の総人口は、このまま推移すると、年間100万人のペースで減っていき、わずか76年後の2100年には6300万人に半減し、総人口の中で65歳以上の高齢者が占める割合は40%程度になる見込みです。

さらなる人口減少は日本の経済や社会に深刻な影響を与えるでしょう。まず考えられるのは労働力不足による経済成長の鈍化です。労働人口の減少によって経済成長率が低くなり、経済規模の縮小も余儀なくされ、国内市場が縮小することが懸念されます。その結果さらに成長が鈍化し、悪循環が生じてしまうことになりかねません。

また社会保障制度を維持していくことも難しくなるでしょう。いまのまま少子高齢化が進行すると、2060年ごろには高齢者1人を現役世代1人で支える時代が到来するといわれています。高齢化が進むと、年金や医療費などの社会保障費が増大し、高齢者に対する現役世代の人数が減れば減るほど現役世代の負担が増え、可処分所得の減少につながることにもなります。

当然、日本の海運業にとっても甚大な影響があると考えられます。直接的な影響だけでも人口減少・経済成長鈍化による海上物流需要の減少、高齢化の進展に伴う深刻な人材不足等が懸念されます。

現下の状況を踏まえ、民間の経済人や研究者などの有識者らで構成する「人口戦略会議」は2024年1月上旬に、2100年を視野に入れた長期の人口戦略などを取りまとめた提言書「人口ビジョン2100—安定的で、成長力のある『8000万人国家』へ—」を首相に提出しました。

提言書では、人口減少と歯止めのかからない少子化の流れに危機感を示すとともに、基本的課題として「国民の意識の共有」「若者、特に女性の最重視」「世代間の継承・連帯と『共同養育社会』づくり」の3点を提示しました。そして、2100年に8000万人で人口が定常化することを目標に、人口減少の流れを変える「定常化戦略(人口減少のスピードを緩和させ、最終的に人口を安定させることを目標とする戦略)」と「強靭化戦略(質的な強靭化を図り、現在より小さい人口規模であっても、多様性に富んだ成長力のある社会を構築する戦略)」の実行による「未来選択社会(未来として選択し得る望ましい社会)」の実現を提案しています。本提言は海運業にとっても示唆に富む内容が多く含まれていると感じました。

人口減少問題への対応の難しさは、ともすれば日々の生活や事業活動の中では「差し迫った危機を感じにくい」、というところにあるのではないでしょうか。現在を生きる私たちが当事者意識をもって対応策を実行しながら、次世代にバトンを受け継いでいく覚悟が求められている、と強く感じています。国・産業・企業・個人の各レベルで将来を見据えた対応策を実行すると同時に、それぞれのレベル間でよく連携をしていくことも重要になってくると考えます。このような「タテの連携」を推進していく上で、日本船主協会はますます重要な役割を果たしていくことになると確信しています。

以上
※本稿は筆者の個人的な見解を掲載するものです。

  • オピニオン
  • 海運政策・税制
  • 海賊問題
  • 環境問題
  • 各種レポート
  • IMO情報
  • ASF情報
  • 海事人材の確保