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オピニオン

2024年4月1日

橋本副会長

「ルールメイキング」

日本船主協会 副会長
商船三井 代表取締役社長
橋本 剛

商船三井は、世界経済フォーラムと米国政府が主導するFirst Movers Coalitionに加入し、昨年はドバイで開催されたCOP28にも参加して、特に脱炭素に向けたルールメイキングについて、企業や政府の関係者との多様な議論に取り組んできました。COP28では、以前のやや空想的な理想主義から現実的な解決策へのシフトが見られました。急進的な考え方、例えば石炭火力や原子力発電の即時停止、飛行機による旅行の大幅な制限などは、ウクライナ戦争によって起こされたエネルギー危機や、グローバルサウス各国からの反発を受けて退潮し、より漸進的なアプローチが求められるようになっています。EVや洋上風力の急速な普及により産業優位を固めようという欧州の思惑が、両セクターにおける中国企業の目覚ましいシェア拡大により狂ってきてしまったことも背景にはあるのでしょう。

欧米がリードして国際ルールを決められる時代は終わり、各国間のコンセンサスを、時間をかけて形成する必要があることが認識されてきました。

海運の舶用燃料の需要は内航も含めると石油換算で3億トン以上あり、これを単一の代替燃料で置き換えることは難しく、省エネ技術の進化、風力の活用、陸電供給など様々な施策を組み合わせることで、低エミッション化を進め、最終的にゼロエミに到達させるべきだと考えています。特に、新燃料のサプライチェーン構築については個社の対応では難しく、海運業界、燃料供給者等のパートナー、政府機関、関係各国が協力しながら、全体で適切なルールを定めていく必要があります。業界が一丸となってルール形成に取り組む必要があり、日本船主協会の役割も益々重要なものになると思っています。

COPや世界経済フォーラムへの参加、そして国際的な議論の場にいること自体が、日本の存在感を高める上では有益でしょう。しかし、ルールメイキングにどれほど影響を及ぼしているかという観点から見ると、まだまだ改善の余地があると感じています。日本がルールメイキングに影響を及ぼすためには、単に個々の企業が意見を述べるだけでは足りず、産業界、政府、学界が連携し、公益性のある目的を明確に打ち出し、周到な準備を行い戦略的に会議に臨む必要があります。継続的かつ地道に取り組み、人脈を構築して信用を積み上げていくことも大切です。

他国のケースでは実業界と政界官界が巧みに連携し、広告代理店やロビイスト、弁護士なども活用して、国際会議の場でキャッチーなテーマを打ち出し、ビジネス経験豊富なベテランが、政策と実業のバランスを保ちながら議論を巧みにリードしているようです。日本も、人々の心に響くようなインパクトのあるメッセージを上手く伝えることが必要だと感じています。

ルールメイキングがビジネスの成果を全て決定するわけではありませんが、それがビジネスの一部であると捉え、積極的に取り組むことで、日本も世界の一員としての役割をより深く果たすことができますし、公平で現実性のあるルールづくりに貢献しながら、世界の動向をいち早く掴むことでビジネスにおいても大きな成果につながると考えています。

以上
※本稿は筆者の個人的な見解を掲載するものです。

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