JSA 一般社団法人日本船主協会
文字サイズを変更する
小
中
大

Homeオピニオン >2024年6月

オピニオン

2024年6月1日

森重理事長

ハンブルクのモデルシップ

日本船主協会 理事長
森重 俊也

ハンザ同盟の時代を想わせるハンブルクの港の一角に、巨大な赤レンガ倉庫を改修した国際海事博物館がある。入口から上の階にエスカレーターで登っていくごとに、様々なサイズ、種類のモデルシップが次々と現れる。船たちに囲まれながら、展示を見てゆくと、その時代にいるようで不思議な感覚になる。

そして9階最上階、驚いた。巨大なガラスケースの中は、おびただしい数のミニチュアモデルシップがびっしり。「THE BIG WORLD OF TINY SHIPS」 船は地域、国別に配置されており、あるある、日本の商船、あの会社の船とわかる。軍艦もある。10センチ程度のミニチュア、すべて縮尺1250分の1で統一されている。5万隻のモデルシップを擁するこの博物館は、世界から訪問客を集めており、実に羨ましい思いがした。

海事博物館といえば、英国グリニッジの帆船カティサークも圧巻。船倉ごとに、ティーボックスの積み付け方、船体構造など、わかりやすく解説されている。面白いのは、順路の最後、船底を真下から見上げられる。カフェもあって、多くの家族連れがコーヒーを飲みながら楽しそうに見ていた。

日本ではどうか。思った以上に、マリタイムヘリテージ、船・海洋に関わる博物館は各地にある。モデルシップという点で優れているもの、デジタルのものもある。課題もあると思うが、特色を生かして健闘してほしいと願っている。

海洋国家の風格に接し、船、海運を身近に感じられる空間があるのは大事なことである。船の運航形態の変化や都市化などにより、大型商船の姿が日常生活から消えて久しい。私は海の絵画展の選考に関わることがあるが、船の絵がとても少ない。あってもフェリー、漁船、帆船、自衛艦、巡視船で、大型商船はクルーズ船くらい。寂しい限りである。

今わが国では、海事人材の確保が喫緊の重要課題となっており、海事関係団体、各企業、国により取り組みが進められている。日本船主協会(以下、船協)でも、船員教育への支援を行うとともに、ポスター、映像、SNSによる新しい広報を展開し、船の迫力ある大きな姿をアピールするようにしている。

さて、日本でヒストリックな船のシンボルといえば、横浜にある日本郵船の「氷川丸」と、東京海洋大にある「明治丸」であろう。いずれも重要文化財になっている。歴史的船という点では、現存しない船にも触れておきたい。船協が入居する海運ビルの1階ロビーには、会員企業のご協力を得て、船種と年代の異なるモデルシップを、昨年から5隻展示している。来訪者の方々が眺めておられる姿をみると嬉しい思いである。

この5隻のうち、最も大きいのが大阪商船の「報国丸」であるが、ちょうどロビーに置かれた頃、偶然にも「報国丸の生涯」という本が出版された。早速読んでみたが、戦前戦中、わが国海運がいかに歴史に翻弄されてきたかよくわかる。ご興味のある方は読んで頂ければと思う。

国際政治・経済の影響を大きく受けながらも、国民の暮らしと経済を支えるミッションを果たし続けるわが国海運。未来に向けて、次世代の若者、子供たちに語りかけるバックヤードには、船と海運のヒストリーを大事にする思いを持っておきたいと思っている。

以上
※本稿は筆者の個人的な見解を掲載するものです。

  • オピニオン
  • 海運政策・税制
  • 海賊問題
  • 環境問題
  • 各種レポート
  • IMO情報
  • ASF情報
  • 海事人材の確保