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オピニオン

2024年8月1日

大谷常任委員

人的資本強化の先には
~できることから始めてみよう~

日本船主協会 常任委員
飯野海運 代表取締役社長
大谷 祐介

人的資本の強化がここ数年注目されている。従来の考え方では、人材は資源の一つでコストとされてきたが、人的資本において人材は「利益や価値を生む存在」として、資源ではなく資本に位置付けられている。人材を充分に育成・活用し、その価値を最大限に引き出すことは、企業の生産性や経済的価値を高めるために重要な役割を担う。

人的資本経営の実践においては、単に人への投資を増やすだけでなく、あらゆる経営資源や経営戦略を総動員し最適化することが重要だ。特に経営資源としてのオフィスを機能性や快適性を考慮して働きやすい環境にすることは、資本である従業員のモチベーションやパフォーマンスの向上に寄与し、人的資本経営に向けた人材戦略の実践に大きく貢献し得るものだ。快適なオフィス環境では、従業員同士のコミュニケーションが活発化し、新しいアイディアや意見が生まれ、情報の共有もスムーズで、企業の生産性を向上させると考えられる。

コロナ禍を経て多様な働き方が定着し、オフィスに求められる役割は大きく変化した。政府はコロナ以前から働き方改革の一環としてテレワークを推進していたが、それがコロナ禍により一気に進展した。コロナが5類になって以降は、多くの企業でオフィスに戻る動きが広がり、その動きは海外より日本のほうが顕著だ。海外では従業員をオフィスに戻すのに苦労しているとよく聞く。実際にテレワークを経験し、多くの人がその利便性を実感したと思うが、一方で、改めて対面でのコミュニケーションの重要性が再認識されたことがオフィスへの回帰が進んでいる要因の一つであろう。

飯野海運は中期経営計画の重点戦略に「人的資本の強化」を掲げている。その一環として、竣工から12年が経過した飯野ビル本社のオフィスリノベーションを進めている。以前からフリーアドレスも導入し、部署を超えたコミュニケーションの活性化を図っているが、改めて飯野海運にとってのオフィスを「役職員が集い・繋がることで気づきが生まれる場」と定義し、役職や組織の垣根を超えて自由闊達に日々交流することで、新しい発想が生まれ、会社も成長していけると考えている。来年春の完成を目指し、オフィススペースの拡充に加え、役職員が自由に集い打合せなどができるフリースペースやリラックスできるラウンジスペースなどを整備する予定だ。

海運業を担う飯野海運にとっては、船で働く船員の船内環境の整備・改善も人的資本強化のための重要な要素であると捉えている。特にインターネット環境の改善は家族から遠く離れた環境で働く船員にとっては働く上でのモチベーションに直結する。この他、分煙対策などによる快適性の強化、内航船では女性専用シャワールームの設置など、働きやすい職場環境の拡充にも取り組んでいる。労働時間の厳格な管理やハラスメント対策などのソフト面に加え、ハード面においても船員の働きやすい環境の整備推進を通して、海運業にとって欠かせない人材の確保ならびに持続可能な事業を目指している。

このような職場環境の整備により、従業員のモチベーションや生産性の向上のみならず、組織内で新たな気づきが生まれ、企業価値の向上、ひいては海運業界においても新たな価値創造に繋がっていくことを期待している。

以上
※本稿は筆者の個人的な見解を掲載するものです。

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