2024年9月1日

安全第一とした環境対応の推進
日本船主協会 副会長ENEOSオーシャン 代表取締役社長
廣瀬 隆史
海運業においては、安全を第一としながら環境対応を推進していくことが重要な課題となっています。
本稿を執筆中の2024年7月現在、パリオリンピックが開催され、多くの注目を集めていますが、今大会は環境に配慮したオリンピックとしての側面があります。今大会では、「節度」、「革新」、「大胆」の3つの原則に基づき、これまでの大会と比較して、大会に関連して排出される温室効果ガス(GHG)の量を50%に削減することを目指しています。
昨今では地球温暖化の主要因とされるGHGの排出に関する規制や取り組みが世界的に進展していますが、こうしたオリンピックでの取り組みからも、環境問題への世界的な関心や動きが一層高まっていることが感じ取れます。
われわれ海運業界においても、環境問題への対策は避けて通れない重要課題となっています。国際海事機関(IMO)は、第80回海洋環境保護委員会(MEPC80)において、2050年頃までにGHG排出ネットゼロとする目標を採択しました。このような状況下において業界では、LNG燃料船の導入や、アンモニアや水素などの次世代燃料の研究開発が進められています。ENEOSオーシャンでは、LPGと重油の両方を燃料として使用できるDual Fuel主機を搭載したVLGCを導入しており、アンモニア輸送やSAF輸送などの取り組みを進めています。
さらに、2024年1月からEU域内排出量取引制度(EU-ETS)が海運セクターへ適用されることとなり、業界に大きな影響を与えると予想されます。これらの環境規制の動向は引き続き注視が必要となります。
このような環境規制への対応は大きなコスト増加を伴いますが、今後の事業活動を存続させる上で重要な転換点であり、将来を見据えた必要不可欠な投資となるでしょう。
こうした環境問題への対応が急務とされる中であっても、海運業界として安全とコンプライアンスの徹底を忘れてはいけません。この徹底を怠ると、社会からの信頼は失墜し、企業の存続が困難な事態に発展するリスクがあることは言うまでもなく、いかなる状況下でも妥協することは許されません。船舶の安全運航を確保し、国際条約や各国の法規制を厳守することは、海運業界の社会的責任であり、企業の発展を支える礎です。故に、安全とコンプライアンスの徹底をベースとして、多角的なアプローチで課題に取り組んでいく必要があります。
海運業は世界経済を支える重要な基盤産業です。その存続は業界だけの問題ではなく、国際社会全体に関わる問題です。安全運航の徹底や国際的な法規制の遵守はもちろんのこと、環境との調和を図り、変化に柔軟に対応していきたいと考えております。
以上
※本稿は筆者の個人的な見解を掲載するものです。