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オピニオン

2024年11月1日

須田常任委員

「持続可能への発想転換」

日本船主協会 常任委員
NYKバルク・プロジェクト 代表取締役社長
須田 雅志

家電製品の最期はいつも突然やってくる。この夏、自宅の洗濯機が壊れた。13年使ったので寿命なのかも知れないが、修理をするにも13年前の製品だと、部品がもうないかも知れないと言われ、結局、買い替えることにした。家電量販店で新しい洗濯機を選び、価格交渉をしようとすると、選んだ製品はメーカーの指定価格制度対象製品で、値引き等は一切出来ないと言われた。どこの量販店に行っても同じだというので、結局、指定された価格で買うことに決めたが、腑に落ちないので調べてみると、この制度は2020年にある家電メーカーが導入した制度で、販売価格はメーカーが指定し、家電販売店は値下げや在庫処分時の値引き販売が出来なくなる一方で、販売店の在庫リスクはメーカーが責任を持つ制度だそうで、その後別の家電メーカーも導入している。返品を可能にしていることから、メーカーが販売価格を決定することを禁止する独占禁止法には抵触しない、ということのようである。導入を決めたメーカーの経営者は、「流通と消費者、メーカーの三方良しの姿を作りたかった。流通企業は、接客力があれば買ってもらえ、同社の社員も『本当に強い製品を出さないとだめだ』と、意識が変わってきた」、更に「家電は従来、発売から1年経つと3割近く値下がりする。(付加価値を高めて価格を維持していくため)毎年マイナーチェンジを続けていたが、その分の労力を消費者が本当に求める新製品の開発に充てられる」とインタビューで答えている。

前段が長くなったが、SDGsが唱えられて久しい。筆者はSDGsの実現のためには、各個人が正しい市民になること。消費で言えば、1円でも安いスーパーを探して買い物をするのではなく、地元の商店で世間話をしながら買い物をし、お金を循環・地域を活性化させることが大事と思っているが、このメーカーの試みも、人手不足を補い、適正な利益を確保した上で、消費者のニーズにサステナブルに応えていく試みなのではないかと思う。

この視点で、海事産業とりわけ造船業界に目を向けると、こちらも人手不足の問題は深刻である。環境対応、新燃料対応は喫緊の課題であるが、多種多様な全ての船種でこれら解決のための設計をすることは限界があり、各造船所は優先順位をつけて取り組んでいる。言い方を変えれば、得意な船は更に腕を磨いて造るが、不得手な船は造らない。つい最近のことであるが、NYKバルク・プロジェクトで特殊船型の発注を検討するにあたり、日本にとっては非常に大事なエネルギー関係の貨物を運ぶこと、また高船価市況の下、同じ船を造るのであれば、国内造船所をサポートしたい気持ちから、国内造船所での発注を模索したが、価格差はどうしようもないほど大きく(その造船所にとってみれば、やりたくてもやれないほど手間や時間がかかる案件だったのかも知れない)、残念ではあるが国内造船所への発注を断念せざるを得ない事例があった。人手不足や材料費高騰はあるものの、足元の新造船発注の需要は強く、無理して船台を埋める必要もないことから、造船業界にとってはやっと経営を安定させられる好ましい環境であろう。発注する船社側から見ると、安い時だけ発注し、高値船価の時はいずれ下がるだろうと高を括っていた、ツケが回ってきた恰好である。結局、誰かが辛い思いをしなければならない状況では、商売は長くは続かない。三方良しではないが、次代の海事産業を持続的なものとするために、海事関係者は荷主も含め、考え方を転換する時期ではないかと思う。価値のあるものを造り、価値を分かってもらえる人に売る、もちろんきちんと説明し、理解してもらうことが大前提であるが。

以上
※本稿は筆者の個人的な見解を掲載するものです。

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