2025年4月1日

「ご安全に!」に込めた想い
日本船主協会 常任委員NSユナイテッド海運 代表取締役社長
山中 一馬
先日、久しぶりに製鉄所の現場を訪問する機会を得ました。その際に構内でお会いした従業員の皆さんから、慣れ親しんだ懐かしい挨拶である「ご安全に」という言葉をかけてもらいました。「ご安全に」という挨拶は、「おはよう」「こんにちは」「さようなら」など様々な挨拶をこの一言でカバーできる便利さもあり、長年にわたり製鉄所勤務をしてきた私にとって、朝から晩まで一年中幾度となく交わしてきた挨拶の言葉です。
「ご安全に」という言葉は、ドイツの炭鉱夫たちが使っていた「ご無事で!(Glück auf)」という挨拶が由来とされています。1953年に当時の住友金属工業の製鋼所で安全啓発策として導入されて以来、建設業や製造業など、危険を伴う作業現場で広く挨拶として使われるようになったとのことです。
改めて考えてみますと、この「ご安全に」という一言には様々な意味が込められていると感じています。安全に関して、「危険作業に気をつけて、という注意喚起」、「危険に遭わないように、という思いやり」、「頑張りましょう、という励まし」、「気をつけよう、という自分への戒め」など、現場で働く人々の安全を願う気持ちが宿っている言葉だと思います。危険が伴う作業現場ではお互いの安全を確認し合うことが重要であり、「ご安全に」という言葉はそのような現場での連帯感や信頼関係を築くための重要なコミュニケーション手段にもなっていたのでしょう。
第二次世界大戦後に経済復興を遂げて経済大国としての地位を確立し、1980年代には世界第二位の経済大国として国際社会での影響力を強めたわが国。その後の経済停滞期を経て、足元は国際社会での存在感を取り戻すべく様々なアクションを実行している途上にあります。日本再生に向けた処方箋は多岐にわたりますが、特に産業競争力の回復に向けては技術革新を一層推進していく必要があると指摘されています。
海運業においてもデジタル化技術や自動運航技術などの最新技術の導入を加速し、さらなる効率的な運航を追求して国際競争力の維持・強化を図っていく必要があると認識しています。一方で、これからどれだけ技術が進化しても、最終的に船舶を安全に動かすのは「人」であることには変わりないと私は考えています。むしろ技術の進化に伴い新たなリスクが生じる可能性もあるため、これからも常に安全意識を高めていくことが求められていくのではないでしょうか。安全は全ての基盤であり、これを疎かにすることはできないということは、時代や産業・業界の違いに関わらず不変であるべき価値観であり、この安全最優先の考え方や文化は継承されていくべきだと考えます。
先行き不透明な政治・経済情勢が続いていますが、このような時だからこそ日本船主協会の会員の皆様と共に「安全文化の継承と発展」に注力していきたいと思います。
「ご安全に!」
以上
※本稿は筆者の個人的な見解を掲載するものです。