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2026年7月1日

橋本副会長

ペルシャ湾情勢と海運の責務

日本船主協会 副会長
商船三井 取締役会長
橋本 剛

米国・イスラエルとイランの間で戦争が勃発し、ペルシャ湾の自由な航行が不可能になり、国際海運は重大な課題に直面した。

湾内に滞留を余儀なくされていた船舶の湾外への退避に加え、本船への燃料や食糧の補給や船員交代の手配など、船主・オペレーターは日々、さまざまな課題に直面している。更にこの状況が長期化すれば航行上の問題にとどまらず、世界のエネルギー供給に影響を及ぼす深刻な事態に陥ることが懸念されている。

過度な長期乗船は船員の負担を増大させ、安全運航の前提を揺るがしかねない。また、攻撃事案が断続的に発生する中での湾内滞留は、船員にとって常に緊張を強いられる環境であり、精神的な不安も大きい状況が続いているので船員交代や船員のメンタル面でのケアも必要になっている。本稿を書いている6月上旬の時点においても湾内には未だ出域できていない船舶が多数存在している。原油タンカーをはじめとする危険物を積載した船舶が湾内に滞留する状況が続いていることは、ひとたび事態が悪化した場合の環境面・安全面において致命的な状況に陥りかねないものであり、極めて憂慮すべき状況である。

こうした困難な状況の中、各国は出域に向けて積極的に動いている。インド、オマーン、カタール、パキスタン等は、それぞれの立場とネットワークを活かし、ホルムズ海峡の出域に向けて尽力し、他国に先駆けて何隻もの船舶を湾外に脱出させる事に成功した。中東からのエネルギー輸入の確保、船員保護、エネルギー輸出の継続等、背景事情は各国各様でありながら、これら諸国の具体的かつ実務的な働きかけにより、停滞していた船舶の出域が実現したのである。さらに、日本政府による関係国への粘り強い働きかけや調整努力も相まって、日本関係船舶の出域も徐々に実現し始めた点は極めて重要であり、外交的努力が具体的成果をもたらした好例である。

日本政府の対応は終始一貫して極めて重要な役割を果たした。関係国との粘り強い外交努力により緊張緩和を後押しするとともに、現地情勢に関する適切な情報提供を継続し、運航判断を行う現場を支えた意義は大きい。

こうした有事での対応においては、平時からの国家間の信頼に基づく外交関係と、官民連携の蓄積が物を言う。われわれ海運業界として政府の尽力に対し、敬意と感謝を表すと共に、残る船舶の早期出域に対しても引き続き最大限のサポートをお願いしたい。政府の的確かつ継続的な関与がなければ、日本関係船舶の出域を含めた状況の改善は一層困難となるであろう。

日本国にとっても海運業界にとっても、当面の優先課題が湾内に滞留する船舶の湾外への安全退避の完遂にあることは明白である一方で、今後を見据えれば、新たな入域や積荷オペレーションの再開に向けた道筋についても、検討を開始する必要がある。中東からの原油やガスの輸出が滞る状況が長期化すれば、日本経済および世界経済に対して深刻なダメージとなりかねないし、現在はアクセスが阻害されている中東市場への製品や食料品の輸出も再開が待ち望まれる。

今後は、できるだけ速やかに安全なオペレーションを実現し得る条件を整備し、停滞した航海の再開へと繋げていくことが不可欠である。そのためには、船主・オペレーターをはじめとする海事関係者は関係各国政府および関係機関との連携をさらに強化し、実務的かつ継続的な働きかけを積み重ねていく必要がある。

わが国のエネルギー輸入の大宗は海上輸送に依存しており、海運業界はその安定供給を支える重要な役割を担っている。今回の事案は、その責務の重さを改めて認識させるものであった。世界的な地政学リスクの高まりに伴い、今後も海運業界が様々な問題に直面することを覚悟すべきであろう。的確な情報収集と分析を怠らず、日本政府はじめ関係各国との連携を日頃から強化し、安定的な輸送を続ける為には、日本海運業界もより結束して対応する必要がありそうだ。

以上
※本稿は筆者の個人的な見解を掲載するものです。

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