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海賊問題

海賊発生件数が5年ぶりに減少
―2011年の海賊事件発生状況―
 国際商工会議所(ICC)の下部組織である国際海事局(IMB)は、2011年に世界で発生した海賊等事案について報告書を発行しました。これらの概要については以下のとおりです。
 なお、政府等関係機関に対して防止対策の強化を要請する上で、海賊事件の実態把握が重要となります。関係各社におかれましては、海賊事件に巻き込まれた際には、関係先への通報を徹底いただきますよう、よろしくお願いいたします。

1.2011年IMB海賊レポート概要
 2011年に報告のあった海賊事件は、前年より6件少ない439件(前年比約1.3%減)となり、5年ぶりの減少となった。(表1参照)
 発生件数はわずかながら減少に転じたものの、地域別に見ると、ソマリア沖・アデン湾などを含むアフリカ、および東南アジアでは増加傾向となり、発生件数全体の約85%を占める。前年比では、それぞれ約13%増、14%増となり、両エリアにおける海賊事件の増加が見られた。(表2参照)
 一方、被害に遭った乗組員・乗客の数は大きく減少し、2011年は895人(前年比29.5%減)、人質に関しても802名(前年比31.7%減)となった。被害状況の全体像を見ると、被害件数が相対的に減少したことが、結果的に人質被害の減少につながったといえる。(表3参照)
 なお、発生海域別にみると、全体では1位ソマリア沖160件、2位インドネシア46件、3位紅海39件とアフリカ、東南アジアでの事件が顕著であった。またハイジャック件数では1位ソマリア沖24件、2位ベナン8件、3位アデン湾4件と、依然としてソマリア沖・アデン湾における海賊の脅威は大きく、西アフリカにおける海賊行為も注目を浴びるようになってきた。(表4参照)
しかしながら、各国海軍による海賊対処行動やシタデル(篭城設備)設置・民間武装ガードの採用など各商船による防衛対策等が功を奏し、成功件数が減少したとみられている。  

<アフリカ地域>
 紅海を含むソマリア周辺海域における海賊事件は、前年より19件多い237件となり、アデン湾での事件件数が37件(前年比30%減)と2009年をピークに減少をたどる一方で、ソマリア沖161件(前年比15%増)や紅海39件(前年比56%増)、ベナン・トーゴ・ナイジェリア36件(前年比89%増)と、これらの地域では大幅に増加した。各国政府による海賊対処活動やBMP4の徹底など各商船による海賊対策の強化、民間武装ガードの採用等によりアデン湾での発生件数は減少したが、海賊の活動エリアが広がったため、ソマリア沖、紅海などの艦船の活動範囲が及ばない海域では事件が増加している。
 また2011年の銃撃された全ての事件113件がアフリカ地域で発生しており、事件の凶悪化がみてとれる。2011年のハイジャック発生件数を例にとっても、全体の件数が45件であったのに対し、アフリカ地域は38件(含むオマーン)と高い危険海域であることは変わっていない。2011年12月末現在、11隻の船舶と193名の乗組員等が未だ解放されずにいる。
 なお、2011年にIMBの海賊情報センター(PRC)が報告を受けた海賊事件(439件)のうち237件が、ソマリア海賊に関係しているものと見られており、前年比8.2%増となっている。

<東南アジア地域>
 年々減少傾向にあった東南アジア地域であるが、一昨年に続き2011年は前年の70件から80件に増加し、特にインドネシアでは40件から46件へ、シンガポール海峡では3件から11件へと増加した。インドネシアでは武装した海賊が活動を活発にしており、報告されていない事件も多い。襲撃の成功率も他地域に比べ高く、ハイジャック事件も3件報告されている。
 また、マレーシア、極東地域の南シナ海では一昨年から減少に転じたものの、事件はそれぞれ16件、13件と発生しており、予断を許さない状況が続く。

<その他の地域>
 2010年に比べ、2011年はインド洋、南米で減少傾向となった。特にバングラデシュにおいては、前年より13件少ない10件と大幅な減少が見られたが、これは同国沿岸警備隊による警備強化が起因している。しかし、武装強盗による活動は未だ散見される状況で、チッタゴン周辺におけるアンカー時には注意が求められている。

[主な事件の概要]
(1)  2011年1月15日、0800UTC(世界時)頃、マルタ籍タンカー‘Samho Jewely’がソマリア沖を航行中、オマーンマスカット南東沖約310マイル付近(北緯22度00分、東経064度00分)で、武装した海賊に襲撃され、乗組員21名を人質にハイジャックされた。本船は母船として利用されていたが、1月21日、韓国軍の介入により全ての乗組員が救出された。激しい攻防戦の末、船長が負傷、8名の海賊が殺害された。

(2) 2011年1月22日、1236UTC頃、アンティグア・バーブーダ籍一般貨物船‘Beluga Nomination’がソマリア沖を航行中、セーシェル島北沖約360マイル付近(北緯01度49分、東経056度35分)地点で、海賊を乗せた1隻のスキフに追跡、発砲された。本船乗組員はシタデルに立て篭もり、救助を要請したが、海賊は本船を奪うことに成功し、12名の乗組員を人質に取った。その後2名の乗組員が救命ボートで脱出を試み護衛艦に救助されたが、3名は失敗に終わり死亡した。残り7名の乗組員は人質に取られたままであったが、2011年4月13日、本船と共に釈放された。身代金が支払われたとみられている。

(3) 2011年1月28日、0400UTC頃、リベリア籍タンカー‘New York Star’が、ソマリア沖を航行中、イエメン・スコトラ島東沖約560マイル付近(北緯11度17.5分、東経063度33.4分)で、母船から出てきたRPG(携帯式対戦車ロケット弾発射機)と銃で武装した海賊を乗せた4隻のスキフに追跡された。本船はスピードをあげ、海賊対処措置をとり、全乗組員がシタデルへ立て篭もった。4名の非武装保安要員がロケットフレアを発射したが、海賊は乗り込みに成功した。船長はシタデルから船主に連絡を取り、IMBに救助要請がなされ、当局まで伝わった。オランダ艦船が現場へ派遣され、2011年1月29日0600UTC頃オランダ海軍乗船チームがタンカーに乗り込み、シタデルに立て篭もっていた23名の乗組員と4名の保安要員が救出された。海賊は艦艇が到着するまでの間に、現場から撤退した。

(4) 2011年3月5日、1222UTC頃、バハマ籍タンカー‘Guanabara’がソマリア沖を航行中、スコトラ島北東沖526マイル地点(北緯16度03分、東経062度46分地点)で、1隻の母船とスキフに乗った海賊に追跡された。船長は救難信号を発し回避行動をとったものの、海賊は銃撃後乗り込みに成功した。全乗組員がシタデルへ立て篭もり連絡を取り続けたところ、一隻のアメリカ護衛艦が救助信号を受信し、2011年3月6日、乗船チームが本船へ乗り込み、4名の海賊を拘束、本船は解放された。

(5) 2011年9月28日、1145UTC頃、香港籍ケミカルタンカー‘Lime Galaxy’が紅海を航行中、北緯14度02.5分、東経042度49.0分地点にて後方2マイルに位置するスキフに追跡された。スキフは本船船首左舷方向から16ノットで接近してきた。後方1マイルの距離で船長は警報を鳴らし、武装保安要員に警戒態勢をとらせ、全乗組員をシタデルに招集した。0.5マイル地点で、スキフには武装した7名の海賊が乗船しているのが確認された。海賊は0.2マイル地点で、本船船橋方向目掛けてRPGを発射したが当らなかった。武装保安要員が威嚇射撃を行ったところ、スキフは現場から撤退した。

[表1]海賊発生件数推移
表1海賊発生件数推移

[表2]世界各地域の海賊発生件数の比較
表2世界各地域毎の海賊発生件数の比較

[表3] 乗組員・乗客の被害状況(過去3年比較)
乗組員・乗客の被害状況

被害状況2009

被害状況2010

被害状況2011

 

[表4]主要発生海域
[表4]主要発生海域

2.2011年日本関係船舶における海賊等被害状況
 国土交通省海事局は、わが国外航海運事業者等からの報告を基に、2011年の1年間に日本関係船舶(日本籍船及びわが国の船舶運航事業者が運航する外国籍船)が海賊等から受けた被害の状況について、以下の通り取りまとめた。

(1) 発生件数
 日本関係船舶で、2011年に海賊等の被害(単に船舶に乗り込まれたものを含む)を受けた船舶は11件(前年15件)あった。
(2) 発生場所
東南アジア周辺海域で9件(前年9件)、インド洋及びアフリカ周辺海域で2件(前年6件)の事案があった
(3) 被害状況
航行中の船舶が小型船から重火器らしきものによって発砲を受け、船体に被弾、追跡を受けるという事案が、紅海で1件発生した。この事案では、同船の回避操船によって海賊の追跡を振り切っている。また、インド洋では、航行中に乗り込まれたものの、現場に展開する米軍が海賊を拘束するという事案が1件発生した。
東南アジア等においては、錨泊中または着岸中に発生した軽微な事案となっている。
被害にあった船舶について、船籍別の内訳は、パナマ籍9隻、バハマ籍1隻、日本籍1隻であった。

日本関係船舶における海賊行為等による被害発生件数の推移
注)計上されている海賊等事案の発生件数は、人的被害、金品の被害及び船体の被害等の実害が発生した事案のほか、単に船舶に乗り込まれた事案を含めた数となっています。船舶に対して直接的な接触がなかった未遂事案については、発生件数に含まれていません。
  なお、この発生件数は、外航海運事業者から任意に提供された事案のみを計上したものです。


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