82 内航海運に係る諸問題への対応

 

821 船舶燃料油価格の高騰問題

(1)2006年の対応

2006187月には原油価格の指標であるWTIが一時70ドル台まで高騰し、それに伴い運航コストの相当部分を占める内航船用燃料油価格も高騰の一途をたどり、多くの事業者に深刻な影響を及ぼしている。

このため、当協会では、モーダルシフトの推進による物流効率化対策、地球温暖化対策等の重要な課題に取り組み内航海運業界の活性化を図っていくためにも、昨年に引き続き、当協会、日本内航海運組合総連合会、日本長距離フェリー協会の連名で、200694日、北側国土交通大臣に陳情書資料8-2-1-1を手交し、これら事業者の置かれている状況についての理解と支援を求めた。

国土交通省では、同要望を受け、9 56日に安富国土交通事務次官が、日本経団連、日本商工会議所を訪問し、輸送業界の現状の説明、運賃等への転嫁など燃料費コスト負担へ理解を求めた。


資料8-2-1-1

 平成18年9月4日

国土交通大臣 北側 一雄 殿

               社団法人日本船主協会

会長 鈴木 邦雄

               日本内航海運組合総連合会

会長 真木 克朗

               日本長距離フェリ−協会

会長 中村 清次

 

高騰する船舶用燃料油・潤滑油価格の運賃転嫁について

 

謹啓、時下益々ご清栄の段お慶び申し上げます。

さて、昨年来高騰を続けてきた原油価格は、本年87日現在ではWTI価格が$76.98/バレルと過去最高値に迫る価格となっております。この結果、燃料油価格は、昨年1/3月1KL当たりA重油は40,900円、C重油30,800円であったものが、本年46月では、A重油は61,200円(150%増)、C重油は51,650円(168%増)まで値上がりしております。

さらに、本年7月以降の燃料油価格はAC重油ともに更なる値上げとなる可能性が高く、一層厳しい状況に至ることが見込まれています。

中小企業が大多数を占める国内海運事業者は、バブル崩壊後の景気の低迷と荷主企業の物流合理化の波をもろに受けて、企業体力が脆弱化しており、事業を継続する上で死活問題となっております。

もとより、運賃等については、当事者間の相対取引によって決定されるものでありますが、燃料油・潤滑油価格の高騰に伴うコストアップに対して、未だ十分な負担をして頂けない荷主が多く、その対応に苦慮しているのが現状です。このままでは、国内の基幹的輸送手段である内航海運及び長距離フェリーによる安全・安定輸送に致命的な悪影響がでることは必至です。

つきましては、高騰した燃料油・潤滑油価格の運賃等への転嫁について、関係者の御理解とご支援を頂けるようご協力を願い申し上げます。

 

                            以上


(2)2007年の対応

内航燃料油の高騰問題については、燃料費の上昇が多くの内航事業者に深刻な影響を及ぼしていることから、昨年に引き続き、当協会、日本内航海運組合総連合会、日本長距離フェリー協会の連名で、200794日、冬柴鐵三国土交通大臣および松島みどり国土交通副大臣に陳情書【資料8-2-1-2】を手交し、内航海運事業者の窮状を訴えた。

当協会を代表し陳情を行った栗林宏吉内航部会長からは、冬柴大臣に対し、燃料油の高騰が年初から40ドル/KL上昇し、このまま高騰が続けばコスト負担に耐えられない事業者が出るとともにモーダルシフトを担う定期航路の縮小、撤退などによる国民経済への影響に懸念が示された。さらに「石油石炭税の減免等の措置」をはじめ、本問題について抜本的解決策を政府としても検討いただきたい旨、訴えた。

冬柴大臣からは、同要望を踏まえ、日本経団連、日本商工会議所のトップへ運賃等への転嫁など燃料費コスト負担についての理解を求めていくことや地方の運輸局長が地元の荷主へ理解を求めていく取り組みを行っていくことについて明言した。

この他、平成20年度税制改正への対応において、内航燃料の用に供する燃料油に係る石油石炭税の特例措置の創設を当協会に盛り込むとともに、実現に向けた方策の検討に努めた。

資料8-2-1-3 内航燃料油価格の推移】

資料8-2-1-4 燃料油価格高騰に伴う内航海運業界への影響】

 


資料8-2-1-2

平成19年11月14日

国土交通大臣 冬柴 鐵三 殿

国土交通副大臣 松島 みどり 殿

社団法人 日本船主協会

会長 前川 弘幸

日本内航海運組合総連合会

会長 上野  孝

日本長距離フェリ−協会  

会長 岡本 豊

 

高騰する船舶用燃料油・潤滑油価格の運賃転嫁について

 

 謹啓、時下益々ご清栄の段お慶び申し上げます。

 さて、近年原油価格は高騰を続けており、運航船社が購入する国内船舶用燃料油価格も、平成17年1/3月期1KL当たりA重油40,900円、C重油30,800円であったものが、本年7 /9月期では、A重油は67,850(66%)、C重油は58,450(90%)まで急激に値上がりしております。

さらに、今後決まる本年10月以降の燃料油価格は、原油価格が過去最高値を更新して高騰を続けていることから、AC重油ともに更なる値上げとなることは必至であり、コストに占める燃料費の割合が極めて高い内航海運及び長距離フェリーにとって一層厳しい状況に至ることが見込まれています。また、船主が購入する船舶用潤滑油も同様に値上がりしており船主経済を圧迫しております。

中小企業が大多数を占める国内海運事業者は、バブル崩壊後の景気の低迷と荷主企業の物流合理化の波をもろに受けて、企業体力が脆弱化しており、事業を継続する上で死活問題となっております。

もとより、運賃等については、当事者間の相対取引によって決定されるものでありますが、大手荷主との交渉力の格差はいかんともし難く、燃料油・潤滑油価格の高騰に伴うコストアップに対して十分な負担をして頂けない荷主が多く、その対応に苦慮しているのが現状です。

このままでは、国内の基幹的輸送手段である内航海運及び長距離フェリーによる安全・安定輸送に致命的な悪影響がでることは必至です。

つきましては、高騰した燃料油・潤滑油価格の運賃等への転嫁について、関係者のご理解とご支援を頂けるようご協力を頂くとともに内航海運及び長距離フェリーへの抜本的な支援策の構築をお願い申し上げます。

                             謹白


822 内航船員問題不足問題

内航船員は、現在5割程度が50歳以上で、今後10年で毎年2,000名程度の退職者が予想され、船員教育機関卒業生の内航就職者数も業界の求人数に及ばないという状況となっている。また、内航海運における船員需要と船員数の需給ギャップは、海事局試算によると5年後では約1,900人、10年後では約4,500人の不足が予測される。

内航部会では、2007514日に国土交通省海事局から国土交通省で検討している『船員教育のあり方に関する検討会』報告を踏まえた内航船員不足問題について説明を受け、意見交換を行うとともに、同年619日には山本公一衆議院議員(海事振興連盟 内航分科会長)を迎え、船員不足問題を中心に内航海運業界関係者との意見交換会を開催した。こうした会合を通じ、同問題についての解決策について鋭意検討を重ねるとともに、日本内航海運組合総連合会、海事振興連盟など関係方面と協調し、国政へ反映していくこととしている。

一方、2008324日、北九州市小倉において、内航海運事業者と九州の海技教育機関(国立海上技術学校、水産高校)の教員による内航船員不足問題に関する懇談会を開催した。懇談会では、各教育機関から最近の就職状況や内航海運に対する学生の意識などについて説明があり、内航海運業界からは、内航船員が不足している状況について説明した。意見交換では、深刻な内航船員不足問題の実情を認識し、各事業者は若年船員の採用について最大限の努力をしていく一方、内航海運事業者が教育機関に望む教育のあり方などについて、一定の共通認識を得ることができた。

内航部会では、今後もこうした意見交換の機会を設けていくことで、各種教育機関との共通理解を深め、内航船員不足問題について対応していくこととしている。

 

823 海事振興連盟の会合への参画

当協会が海運業界団体として加入している超党派議員で構成する海事振興連盟(会長:中馬弘毅衆議院議員)では、これまで今治、広島、神戸、長崎と4回にわたり各地域においてタウンミーティングを開催し、地元選出の国会議員と海事産業及び関係諸団体、教育・研究機関がそれぞれかかえるテーマについて意見交換を行い、所要の目的実現のための諸施策等について、提言をとりまとめるなど国政へ反映させる活動を行っている。

内航部会では、都度、これら会合の機会に内航業界としての次の通り意見反映を行っている。

@    2006114日の広島の会合では、荒木武文副部会長が参加し、燃料油高騰に伴う、内航・フェリーコスト増は膨大となる実情を説明するとともにモーダルシフト推進のため、港頭施設の充実、シャーシ車検の緩和、内航税制の拡充などについて意見を開陳した。

資料8-2-3-1

A    2007317日に開催の神戸では、地元の兵庫海運組合加藤榮一理事長が内航海運を代表して発言し、暫定措置事業の継続と円滑かつ着実な実施、高齢化や内航船員不足顕在化などを踏まえた船員教育のあり方などについて、積極的に取組むよう訴えた。

資料8-2-3-2

B    20071110日に開催した長崎タウンミーティングにおいては、地元内航海運代表として長崎地区海運組合の日向啓理事長から船員不足が深刻化しているなか船員確保のための学校・教育機関の拡充や燃料油高騰問題などへの国の政策支援について訴えた。

資料8-2-3-3

 

824 内航関係の規制緩和

当協会は政府の規制緩和推進計画がスタートした平成7年より、会員会社から寄せられた海運関係の規制改革要望を行っており、これまで一定の成果を挙げている。

しかしながら、依然として措置されていないもの、若しくは措置不十分なものがあるため、毎年度、会員全社に照会のうえ要望事項を整理し、内閣府の規制改革推進会議が毎年2回実施している「規制改革要望集中受付月間(6月:通称「あじさい月間」、11月:通称「もみじ月間」)」において要望を提出し実現を求めている。

内航関係の要望は以下の通りである。

<平成196月(あじさい)>

 1.内航輸送用トレーラー・シャーシの車検制度の緩和

 2.内航船の航行区域拡大の検討 

 

1.内航輸送用トレーラー・シャーシの車検制度の緩和

海上輸送用トレーラー・シャーシに係る車検制度については、当協会、日本長距離フェリー協会、日本内航海運組合総連合会等の関係団体が連携してモーダルシフト促進の観点から規制緩和を図るべく活動を続けているが、200623日に国土交通省においてシャーシの規制緩和についての考え方を示した『シャーシに係る物流効率化等に関する検討会』中間報告において、シャーシ車検証の有効期間の延長は困難であるとの見解が示された(年報2006 82参照)。

当協会としては、同中間報告の見解にかかわらず、引き続き日本長距離フェリー協会など関係団体と連携し、車検整備項目および車検証の有効期限の見直しを求めていくこととしている。

 

<平成196月(あじさい)>

モーダルシフトに資する海上輸送用のトレーラー・シャーシに対する車検の点検項目および車検証の有効期限を見直しについて要望したが、点検項目について一部改正されたものの、車検証の有効期限は1年間のままで、期間延長は認められていない。

同要望については、日本長距離フェリー協会とも調整の上、引き続き要望していくこととしたい。

<提案理由>

モーダルシフトに資する海上輸送用のトレーラー・シャーシに対する自動車検査証の有効期限は、毎日陸上輸送している一般のトラック同様1年である。主に海上輸送用であるトレーラー・シャーシは、本船船内または港頭地区駐車場に停車している状態が長く、陸上走行距離が短いものとなっている。また、シャーシ自体は動力を持たず、トレーラー(ヘッド)に牽引されるだけである。昨年、国土交通省が発表した「シャーシに係る物流効率化等に関する検討会・中間報告」において、シャーシの走行距離が乗用車と比較すると1.8倍となっており、車検証の有効期間の見直しを妥当とするほどではないとの指摘等があった。しかし、自主点検の体制等から事業用貨物車と比較するべきであり、それとの比較では1/3.5である。京都議定書批准国であるわが国が、モーダルシフトを推進していく上で、海陸を利用した複合一環輸送体制の法的整備という観点から、対象とするシャーシを海上輸送専用とし、欧州で導入事例のある海上輸送用のトレーラー・シャーシをナンバープレート等により陸上輸送用と区別した上で、車検の点検項目及び車検証の有効期限を見直すべきである。

<制度の現状>

貨物自動車(車両総重量8トン以上)の定期点検は3月ごとであり、自動車検査証の有効期間は1年である。

<国土交通省からの回答:措置の概要>

貨物車については、車両総重量が大きく、事故時の加害性が高いことに加え、車輪脱落等による事故など車両欠陥に起因する事故が依然として問題であること等から、その自動車検査証の有効期間の延長には、特に慎重な検討が必要である。なお、「規制改革・民間開放推進3か年計画(改定)」(平成17年3月25日付)において、「検査対象車種全般に亘り総合的に検討を行った結果、小型二輪車の自動車の自動車検査証の有効期間については、初回2年を3年に延長が可能」と結論付けられ、これを受けて改正された道路運送車両法が、本年4月1日より施行されたところである。

また、「シャーシに係る物流効率化等に関する検討会」の中間報告にもあるように、自動車の劣化は単に走行距離によって決まるものではなく、自動車は、時間に応じて劣化する部分があることや、海岸近くで使用される場合には腐食のスピードが速いこと等の使用環境の影響を受けることも考慮する必要がある。

以上のことから、トレーラー等について自動車検査証の有効期間を延長することは困難である。

シャーシの点検項目については、「自動車の検査・点検整備に関する基礎調査検討会」の報告(平成17年3月9日付)を受けて見直しを行った結果、シャーシの車両構造の特殊性を踏まえ、シャーシに係る点検項目を規定する別表を新設する等所要の改正を行い、本年4月1日より施行したところである。

 


 

2.内航船の航行区域拡大の検討

<平成196月(あじさい)>

内航船の航行の自由度が向上するよう、沿海区域の拡大についての見直しの検討を要望したが、20海里以内の必要最低限の航行安全基準、及び安全基準を考慮した限定近海区域の設置などの措置等をしているとのことから要望は受け入れられなかった。

本要望については、同様な要望を提出している日本経団連をはじめとした関係業界団体と連携し、粘り強く対応していくこととしたい。

<提案理由>

現在、内航船(沿海資格船)の航行区域は海岸から20海里の沿海に沿って航行せざるを得ないことから、航海時間、燃料消費等の面から物流効率化ならびに省エネルギー対策の妨げになっている。通信設備はじめ航海機器の発達と船舶の堪航能力及び航海速力の向上を勘案しても20海里以遠の海域の航海は充分可能と判断される。ついては沿海区域、限定近海の線引きを含めた制度の見直しを検討いただきたい。

<制度の現状>

船舶安全法では、航行区域として平水区域、沿海区域、近海区域等の航行区域を定め、かつ、航行区域に応じた船舶の構造、設備基準を定めている。

<国土交通省からの回答:措置の概要>

1.船舶安全法体系においては、海域の気象海象状況や陸岸からの距離等を考慮した航行区域を設定し、当該航行区域を安全に航行するための必要最低限の安全基準を課すこととしている。このうち沿海区域については、原則、陸から20海里までの陸、灯台等を視認した航法が可能な海域を定め、当該区域を安全に航行するための必要最低限の安全基準を設けている。

2.しかしながら、内航船舶の大型化、航海設備の進歩等によって、ある程度沿岸から離れて航行しても比較的容易に船舶の安全性を確保することができるようになったことから、輸送時間及び輸送コストを削減するため、主要内航航路を含む区域(距岸100海里程度)を限定近海区域として新たに設定し、当該区域を航行する船舶について、必要最低限の安全規制とするべく、平成7年から平成13年にかけて、構造・設備に関する以下のような各種規制の緩和を行ったところ。

・ 貨物船を対象とした、船舶設備規程、船舶救命設備規則、船舶消防設備規則及び船舶防火構造規則の緩和(平成7年)

・ 旅客船を対象とした、船舶救命設備規則及び船舶防火構造規則の緩和(平成10年)

・ 満載喫水線規則及び船舶構造規則の緩和(平成13年)

3.これらの緩和は、当該海域の波浪発現頻度、平均波浪といった気象・海象条件の調査、試験水槽における模型船を用いた実験や数値シミュレーションを実施し、学識経験者、造船所、船主等の関係者による検討会を行う等、厳格に調査・検討した上で行っており、限定近海船として必要最低限の安全基準が設定されたものである。この限定近海船の安全基準の検討時以降、更なる規制緩和を認めうる顕著な船舶の性能向上等は認められないことから、限定近海船の安全基準を一層緩和することは、船舶の安全上不可能である。

4.以上のことから、限定近海船としての船舶安全法上の必要最低限の要件に合致していない船舶については、船舶の堪航性及び海上における人命の安全の確保を図る観点から、沿海区域を超えて限定近海区域を航行することを認めることはできない。なお、沿海資格船であっても、限定近海船としての船舶安全法体系の要件を満たしているならば、限定近海船として検査を受け、その船舶検査証書を受有することにより、限定近海区域を航行することが可能である。